2015.07.03更新
幸福の小さな花が咲きました。
麗らかに広がる秋の空と同じ色の花です。この瑠璃雛菊は、任務先で見つけてあまりにも心を奪われたので、こっそり種を持ち帰って、ネジ兄さんと暮らす屋敷の庭に植えたものです。
霜降の訪れを告げるかのように褪せたセピア色の太陽の下、風に舞う青い花は、とても清らかでした。
こうやって、日々を平穏に暮らせることに、感謝の気持ちを忘れずに――兄さんが繋いでくれた未来を大切に――これからも共に生きてゆけたらと、毎日のように祈っています。変わらず隣で笑ってくれている彼が、とてもいとおしいです。
そんな折でした。ネジ兄さんが私に何も告げずに、長期の任務に出てしまったのは。もう二度と彼を失いたくない私は、任務紹介所で確認が取れるまで、生きた心地がしませんでした。兄さんには私しかいないなんて、そんなことは到底言えないけれど、今の私には彼が全てなんです。ご迷惑にならない限りは、決して離れないと決めたのです。
ある日、手紙が届きました。
――謹啓
朝夕随分冷え込んで参りましたが、如何お過ごしでしょうか。
急な召集に慌てていたもので、御心配をお掛けして申し訳ありません。
恐らくあと一月程で帰れる事と存じます。
謹白――
たった三行の短い文章に、どれほど元気づけられたことでしょう。角ばった字で綴られた漢字だらけの硬い文面は、まるでネジ兄さんそのものを表しているようで、少し笑ってしまいました。
何度も、何度も読み返してはその字に触れて、兄さんが残した筆の跡さえも愛しくて、一体私はどうしてしまったのだろうと、自分でも可笑しくなってしまいます。
それから、すぐに返事を書きました。
――一筆申し上げます
庭の瑠璃雛菊が満開を迎えようとしておりますが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。
幸福が花言葉だという小さな青い花を、ネジ兄さんと一緒に見たかったです。
春に再び花をつけるその時も、共に生きていられたらと願います。
押し花を作ったので同封します。
日毎に寒くなりますが、風邪など引かれませんように。
兄さんのお帰りを、心よりお待ちしております。
かしこ――
たとえ離れていても、同じ空の下で今日も生きている、あの方を想い続けられることがこの上なく幸せで、かつて味わった絶望の日々がまるで嘘だったかのように、今の私の心は清く澄み渡っています。次に兄さんが帰る頃には、どんな花が咲いているのでしょうか。
これからもずっと、共にいられたら……。
巡りゆく季節の花を、共に愛でてゆけたら……。
瑠璃色の小さな花に、願いを込めて。
あなたに、早く会いたいです。