2017.05.27更新!
お礼とあとがき
>リー/テンテン一人称+会話文
テンテンがこんなに小さく見えたのは初めてです。
これまでのテンテンのイメージといえば、明るくって元気で溌溂としていて……ある意味男勝りな部分もあり、守るよりも守られる対象だったように思います。
ところが、事故ともいうべき出来事から不意にその体に触れて、すっぽりと収まる小ささに、驚きを隠し切れませんでした。
そう、こんなに華奢な肩に、あんなにも大きな武器を背負って――どれほど大変だったことでしょう。戦闘ではいつも前線にいるボクは、彼女のフォローに回ったことがあまりなく、ネジに任せていたので、こういった状況になるのは稀だったんです。
でも、だからといってどうして気づいてあげられなかったのでしょうか。馬鹿な自分が心底悔やまれます。
湯上りにのぼせた様子のテンテンに、「大丈夫ですか?」と問うても返答がなく、珍しくしどけない浴衣姿に、ボクの方まであてられてしまいました。
テンテンは女の子なんです。あえて確かめるまでもなくかわいい女の子なんです。訳あってふたりで温泉宿に来て、同じ部屋に泊まることになり、さらには壁越しに貸し切りの混浴をして、意識するなという方が愚論というものです。
よし、決めました。何と言われようとボクはベランダで寝ます。いつだって仲間想いの彼女に反対されることは目に見えていますが、それでも一緒に寝る訳にはいきません。そんなことをすれば自分がどうなるかは容易に想像がつくからです。
……こんなときネジならどうするのでしょう? クールを決め込む彼とその手の話をしたことはありませんが、かっこつけているネジのことです。何も起こらないまま、至ってスマートに朝を迎えるのでしょう。己の小物感に嫌気が差します。しかし、今夜もしテンテンを傷つけるようなことがあれば、一生後悔することになります……!
だからボクはベランダで寝ます。お酒だって絶対に飲みません。
ボクが好きなのはサクラさんですが、それとこれとは話が別で、かわいい女の子とふたりきりで夜を明かす状況に、平常心を保っていられる男は男ではありません。
思いの外軽い体を支えていたら、忙しない鼓動が苦しくなってきました。
*
リーをこんなに逞しいと思ったのは、初めてかもしれない。
同期の中でもがっしりしたネジの隣にいるせいか、どちらかといえば細身に見えていた彼が、こんなにごつごつしていたなんて、思いもよらなかった。いつも視線を合わせて話してくれるから、ある意味女友達みたいに気軽に構えていたのに――その味を知ってしまったら、二度と後には戻れない。
思えばこれまでリーと体を寄せたことなんて、一度もなかった。……だって彼はいつだって紳士的で、彼女でもない女の子に触れるだなんて絶対にあり得ないから。好きな子を庇うときだってそう。決して無暗に近づいたりせず、距離をあけてそっと助けるの。
そう、そんなところがどうしようもなく……。
自分が想われていないことくらい分かってる。たぶんこの先も振り向いてもらえないことも。
……だけどね、まっすぐにサクラを想うリーのことを、ただひとり、私だけが唯一支えていたいから。
だからずっと、あの子を好きなあなたを――私も同じくらいか、若しくはそれ以上に、まっすぐ想っています。
*
「テンテン、これまで気づかなくて本当にすみませんでした」
「えっ? 何が?」
「テンテンがこんなに小さな体で、一生懸命頑張っていたなんて……サポート出来ていなくて、悔しいです。これからはネジではなく、ボクが君を守ります」
「そう……? でも……だったら、」
「だったら?」
「……何もない。ありがとう。リーがピンチのときには私が駆け付けるからね」
「いや、守ることはあっても、守られることはないようにしたいです。ですから安心してください」
だったら、できれば「好きになってほしい」だなんてやっぱり言えないから。
……片想いでもいいから仲間としてそばにいられたら、それだけで十分幸せなんだと、いつも自分に言い聞かせる。