2016.08.03更新
ポルノグラフィティ『朱いオレンジ』
ネジ独白。哀しみと救いを求めてる。
リクエストの独白文にて、歌詞になぞらえて書きました。
……苛々する。あの人を見ていたら、自分では到底抑制の及ばぬ真っ黒な感情が、際限なく溢れ出す。
何故なのかは分からない。無意識に、翻って不本意に注がれるあの人への冷やかな心は、もう二度と溶けないのではないかという程に固まって、どうすることも出来ない。曲がりなりにも、忍として生きてきた自分が、下らぬ感情に振り回され、ずっと格下の従妹に心を乱され続けている様は、どう考えたって滑稽だというのに――恐らく、オレは救いようのない馬鹿なのだろう。
血統だけで言えば彼女の方が上だが、忍としての能力は、格段にオレの方が勝っている。
あの人の存在を意識する理由がどこにある?
――ネジ兄さん。お食事はちゃんととられていますか? おひとりで大変ではないですか? 私に、何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください。
向けられる笑顔も、穏やかな言葉も、そのすべてが偽物に見える。オレを孤独に突き落としたのは他でもない。オレの嫌いなヒナタ様と、彼女の属する日向宗家の面々なのだから。何を今さら。オレから父上を奪っておいて、己を飾り立てた綺麗事には、虫唾が走る。本当に下らない。
嫌い。そうだ、嫌いなんだ。だからあの時、圧倒的な力の差を見せつけて、打ち負かしてやったんだ。それでも立ち上がり、歯向かってくるヒナタ様に、言いようのない憎しみをぶつけた。
……あの状況下で、どうして笑えるのか?
どうして偉そうに講釈を垂れることが出来るのか?
頭に来る。ヒナタを思うと、絶えず沸き上がる苛立ちが、どうしても抑え切れずに暴れ出す。
鋭く、冷たい指先でヒナタの腕に触れた。
鋭く、烈しい拳でヒナタを突き飛ばした。
鋭く、辛辣な言葉でヒナタを追い詰めた。
どんなに叩き伏せても絶対に屈することの無い彼女を見ていたら、余計に心が波打った。
オレが勝ったのに、オレの方が強いのに、どうあっても敗北が頭を過るのは何故だ――?
嘲笑えばいい。
オレはどうしようもない馬鹿なのだ。己の支配下にある感情にすら抗えず、弄ばれ、どこまでも飲まれてしまうのだから。……そして至極簡単に染められてゆく。
真っ直ぐなほどに澄んだ、柔らかくて綺麗な、浩然たるヒナタの色に。
そう、それはいつしか濃く深く色づいてゆき、もう何色にも染まらぬ、淀んだ黒に変化した筈だった。
だが、その不条理はただの思い上がりで、諦めていた願いは、愚かにも己の未熟さによって、いつまでも動き出せぬまま、そこに在った。
――またお話できて嬉しいです。中忍試験を終えてからずっと気になっていたの。やさしいあなたのことだから、気に病んでいるんじゃないかって……。私は、大丈夫。到底敵うはずもないのに、兄さんは止めてくださったのに、しつこく食い下がってしまって反省しています。
――それに、兄さんの心に触れることができて、よかったです。もっと思っていることが知りたい。いつでも何でも話してください。私は、何があってもあなたの味方です。
何故、あの時無理をした?
オレの為じゃないだろう?
体のいい言葉を並べても、何をしても、あなたが見ているのは、オレじゃない。
あなたの心に、オレは居ない。
――ナルト君に格好悪いところは見せられないもの。
真っ黒に蠢く心が、どうにもならなくて吐き気がした。オレは、ずっとずっと、あなただけを見てきたというのに……!
……違う。黒じゃない。……決して冷たくなんてない。
熱くて熱くて、触れれば忽ち焦げてしまいそうな、真っ赤なんて、優に通り越した――。
朱い朱い、どこまでも鮮明なオレンジ。
オレがあの人へと注ぐのは、
与えたいものは、
奪われたものは、
結局、何もかもすべて、あの人の中にしか存在しない。あの人の中でしか存在出来ない。
それはオレの独善的な我が儘なのであって、あなたに求めてはいけないことくらい、十二分に分かっている。
それでも、どうしてもあなたに溶かして欲しいと念うのは、自分でも制御の及ばぬ、抑えても抑えても否応なく溢れてくる感情だから。
オレ自身にも、もはやどうすることも出来ない。だからせめて、ほんの少しでいい。オレを、見ていて欲しい――心を、傾けて欲しい。
あなたは、オレをずっと独りぼっちにしたんだ。そのくらいは、赦されるのではないか?
決して愛してくれとは言わない。
でも、僅かでいいから、オレにも心を注いで欲しい。
そして果てのない孤独から救い出して……。
そうしたらきっと、行き場を無くし、我情に塗れた想いが、少しは浄化される気がするから。
――本当は、あなたに囚われ、焦がれ続けた時間を返して欲しい。
あなたを想い続けることは、胸が粉々になる程、こんなにも息苦しい。