2015.09.05更新
古く、堅苦しい風習から抜け出せずにいる、極めて閉鎖的な一族において、その期待を一身に受ける少女はまだ、弱冠九歳であった。
同じく優秀と言われる、六つ年上の従兄によく似た、眩しいほどに孤高な風格は、もはや悲しくさえもあり、時には冷たく感じられることもあった。きっと、自分の背負う宿命に、小さな体で懸命に立ち向かおうとするその凛とした強さが、幼い彼女を大きく見せていたのだろう。
しかしてハナビには、五つ年上の姉がいた。名をヒナタといい、彼女と歳の近い従兄とは全く違う、柔らかくてあたたかい人柄が一目で伝わるような、そんな優しい雰囲気を湛えていた。
大人しくて目立たない彼女は何故か、いつ、どんな場面でも、損な役回りを押し付けられてしまう。しかしそれでも、嫌な顔一つせずにふわりと微笑んで、他人の為に尽くそうとする姉を、ハナビは誰よりも敬愛し、強く誇りに思っていた。
ある日、姉と従兄の会話を、意図せず漏れ聞いてしまった。誰にでも優しいヒナタが、自分に向ける淡い思い遣りは、彼女の周りの、その他多くの者へ注ぐものと変わらない、博愛のようなものだと考えていたハナビは、泣きたいくらいに嬉しくて、自分は決して孤独ではないのだと、心から救われたのだった。
「あの子はきっと、本当は、そんなに強くないと思うんです……だけど、自分を殺して、虚勢を張って……周りの期待に応えようと、必死に踏ん張ってる……あの子は、ハナビは、とても大好きで、何よりも大切な、私の妹なのに……それなのに、私は何もしてあげられなくて、辛いの……あの、教えて下さい。私は、何をすればいいですか?」
「……あなたらしいな。その言葉をそのまま、ハナビ様に言ってあげればいいのでは? 一族のことは関係なく、ただ一人の姉として、純粋に、妹に寄り添ってあげればいいと思うが」
「わ、私……自信がなくて……私なんかに世話を焼かれても、ハナビにとってはありがた迷惑なんじゃないかって……」
「……あなたの思うようにすればいい。大丈夫。あなたは間違っていませんよ」
「ネジ兄さん……」
ずっと、たった一人で戦っていると思っていた。厳しい父の下、全ての楽しみを奪われて、その年頃らしいあどけなさの、何もかもを否定されて、ただ強くあることのみを求められて……。自分はいずれ、一族を背負って立つ跡継ぎであることにのみ価値があり、日向ハナビという一人の人格には、大して価値がないのだと言われているようで、ひどく苦しかった。
けれどもそんな自分を、真っ直ぐに愛してくれる人がいた。
たった一人の、大切な姉がいた。
――何もしなくていい。これからもただ、傍で見守っていて下さい。
――姉様……私も、姉様が大好きです。