2015.09.05更新
二人でいるのに寂しい。ヒナタがそう思い始めたのは、つい最近のことだ。
元より優秀な忍だったネジは、やがて多くの任務に駆り出されるようになり、ここのところは、共に住む屋敷を空けることが多くなっていた。よって、たまに帰って来ては修行や忍術書に夢中になっているネジと、まともに会話をしたのはもう随分前のことだった。
「ネジ兄さん、次の任務はいつからですか?」
「ん? ああ、そうだな……」
「ネジ兄さん、今日は何が食べたいですか?」
「ん? まあ、どうかな……」
「私といたって、楽しくないですか?」
「ん? いや……」
今日は、珍しく非番のネジと一緒にいられることを、何日も前から楽しみにしていたのに。朝からずっとこんな調子で、ヒナタは少々、不貞腐れていた。
――たまに会った今日くらいは、私だけを見て欲しいのに!
熱心に本を読み耽るネジの背後にまわったヒナタは、まるで幼い子供のように、自分と同じ、その藍白の大きな瞳に、両の掌で蓋をした。
「……ヒナタ様。手を、退けて下さい」
いつだって冷静なネジは、ヒナタの“構って”のサインを、さして気にする様子もなく、そして受け取る様子もなく、するりと手をほどくと、また本の世界に、一人で入り込んでしまった。
――どうして? 私といるのに……。
ところが、次にヒナタが出た行動は、ネジの思いもよらないものだった。
「……ヒナタ様。これは何だ?」
黒檀と紺藍の、互いに長い髪を、それぞれ半分ずつ取って、いきなり三つ編みを始めたのだ。暫くして、色違いの二色が混ざり合った固いまとめ髪が出来上がれば、ヒナタは何とも満足げな笑みを浮かべていた。
――あなたが悪いの。私を、置いてけぼりにするから。
「今日は、ずっとこのままで過ごして下さい」
だが、やはりここでも冷静なネジには、少しも効かなかったようだった。
「……別に、オレは構わないが……トイレの時は、どうするんだ?」
「!」
出来上がったばかりの三つ編みをほどいて、ヒナタはネジの膝に縋った。
「……猫、ですか?」
「この際、飼い主にじゃれる猫でもいいです……」
ネジはふっと笑って、その絡まりそうになった髪を、緩やかに梳かしてくれた。それから本を傍らに置いて、ゆっくりと背中を撫でてくれた。
「何だ、構って欲しかったのか?」
「……そうです。悪いですか? 何か、文句でもありますか?」
「いいえ……しかし、えらく物騒だな」
「あなたのせいです。私を、放っておくから……」
ああ、それはすまなかったな、と余裕の笑顔で応えたネジは、やっとヒナタを見てくれた。嬉しくて、嬉しくて、さっきまで不貞腐れていたことなど疾うに忘れて、やはり猫のように、目を閉じて微笑んだ。
――いつもじゃなくていい。必ずでなくてもいいから……。
――今、この瞬間は、私だけを見ていて下さい。