2015.12.20更新
――上巳の節句までには帰れると思います。
たった一言の、その味気ない手紙だけが支えだった。
ヒナタはさっそくひとりぼっちになった結婚生活に、毎日、涙を流して耐えていた。
ネジと束の間の幸せな時間を過ごした頃、木の葉には絶えず雪が降り積もっていた。しかし、今ではすっかり融けてしまって、真っ白だった視界は、いつしか、濃淡様々な紅梅色に塗り替えられている。
里一帯を綾なす梅の花の、「高潔」「忠実」「忍耐」……どこかネジを思わせるような花言葉に、ほんの少しだけ励まされながら――。
今日もヒナタはネジの帰りを待つ。
ネジがひとりで住んでいた屋敷は、ヒナタが何も手を加えるまでもないほどに片付いていた。ゆえに、日々の家事はあっという間に終わってしまう。
朝起きたら、まずは家の周りに運び込まれた梅の花びらを掃く。それから服を洗濯して、掃除をする。もっとも、ここは、自分ひとりが過ごす場所。自分さえ汚さなければ、何もすることがなくなってしまう。
……寂しい。ずっと厳格な家庭に身を置いていたが、ひとりぼっちで過ごしたことなど、ほとんどなかった。
たとえ言葉を交わさずとも、家の中で誰かの音がするというのは、とても心強いことだったのだと今になって知る。
宗家にいた頃、毎日をもっと大切に過ごせばよかった。
それにしても、居間にも寝室にも、果ては、台所や浴室にも――。
たったの数日間に、幾度となくネジを受け止めた記憶が、たくさん残ってしまった。
正直なところ、いつだって冷静なネジの、少しも余裕のない姿にとても驚いた。あんなにも深く、真っ直ぐに求められることは、嬉しかったと同時に恐ろしくもあった。
でも、「愛されている」その事実だけは、切なくなるくらいに伝わって、体を重ねる度に、何度も胸を締め付けた。
そう、思い出しては泣けてくる。誰かに「恋い焦がれる」とはこういうことなのだろうか?
こんな感情を、これまで経験したことはなかった。思いの外、息苦しい。
居間の卓袱台に花を活け、あたたかいお茶を入れて本を読む。
湯のみがふたつ並んでいた頃が、もはや懐かしくさえもある。ひとりで過ごす時間がここまで長く感じられるなんて……。
年の暮れ、雪一色に染まる夜にネジを送り出した。
やがて雪消月を迎えて、早くも三週間が経ってしまった。
先週、幼い頃に父がつくってくれたひな人形を、質素な床の間に飾った。心なしか俯いているように見えるふたつの人形は、今年もヒナタの厄を払ってくれるだろうか。飾っていられるあいだに、ネジはこの家に帰ってくるのだろうか。
――上巳の節句までには帰れると思います。
……心細い。けれどもその言葉だけを支えに、ひたすら待つことしかできない。
もしもひとりで過ごすことになれば、お腹いっぱい、飽きるほどにひなあられを食べてやる。ひし餅も、ひとりでぜんぶ食べてやる。夫のいる身で、ましてやこの家柄で夕飯をお菓子にすることなど、なかなか許されることではないから。
そうやって、悔し紛れに当てつけることでしか自分を保てそうになかった。
2月21日
早く帰ってきてください。
寂しいです。寂しい。
久しぶりに、かつて交わした交換日記を引っ張り出した。物言わぬ白い紙に、思いの丈をぶちまける。文字にすれば少しは楽になるかと思ったが、自分が今「寂しい」のだと余計に実感してしまい、かえって辛くなってしまった。
それからは、また少しずつ日記をつけた。
傍にいないネジに、知っておいてほしいことがたくさんあるから。無事に帰ったらこの日記を読んで、ちゃんと返事を書いてほしい。
会えないあいだの、喜びも悲しみも、すべての感情を共有していたい。
(ネジ兄さん、早く帰ってきて。お願い……)
いつもネジのことばかり考えていたので、夢の中ではしょっちゅう会うことができた。
手を繋いで微笑み合う。口づけを交わして抱きしめ合う。
……早く現実の世界でも触れ合いたい。
朝目を覚ます度、強くそう思った。
*
ヒナタは、ひとりでどう過ごしているのだろう?
自分がいないことを「寂しい」と思っていてくれていたら嬉しい。そんな独善的なことを考えながら、紅梅色の花が咲き誇る山道を、軽やかな足取りで帰路に着いた。
そういえば今日は上巳の節句だった。思えばそれまでには帰るなどと嘘の手紙を書いてしまった。
……ヒナタは怒るだろうか? いや、そんなはずはない。
ヒナタに会いたくて、会いたくて仕方がないのは、ネジの方だけかもしれないから。
念のため、手土産を買った。ヒナタの好きな、ひなあられとひし餅。
幼い頃から現在に至るまで、かわいいひな人形を愛でることよりも、その菓子を口にすることの方が楽しみだというふうに、ネジには見えたから。
ヒナタのそんな子供じみたところも、どうしようもなくいとおしい。早く帰って、幸せそうに頬張るその姿を見たい。
ヒナタを想い、忽ち緩みだした頬を仲間に気づかれないよう、必死になって無表情を貫いた。
早く会いたい。早く会いたい。早く会いたい。そればかりを考えていた。
里に帰ったら、道すがら顔を合わせた仲間たちが、「おめでとう」と、たくさんの祝いの言葉を掛けてくれた。照れくさかったが、そのすべてに、「ありがとう」と、律儀に応答した。
さて、もうすぐ家に帰れる。ヒナタに会える。嬉しくて、嬉しくて仕方がなくて、自然と笑みが零れるのを止めることができない。今にも踊り出しそうな心境で屋敷へと急いだ。
が、ヒナタはそこにはいなかった。
寂しく思いながらも、軽く湯浴みをして家着に着替え、ヒナタの帰りを待つことにした。
居間の床の間にはひな人形が飾られている。卓袱台には梅の花。ひとりでいても季節の色どりを欠かさないヒナタを、またしてもいとおしく思う。
かわいい。俺の妻は、本当にかわいい人だ。強くそう思う。
自分でもよく分からない感動に酔いしれていると、不意に、机の端に寄せられたノートが目についた。結婚前にふたりで紡いだ交換日記だ。ヒナタはひとりで読み返していたのだろうか? 嬉しい。最高に嬉しい。……懐かしくなって、ゆっくりとページを開く。
直後、どことなく波打ったように見える紙に記された言葉に、ネジは呆然としてしまった。
2月21日
早く帰ってきてください。
寂しいです。寂しい。
おそらく、涙で滲んだと思われるその文字を指でなぞる。
……ヒナタはひとりでいて寂しかったのか。寂しがっていてくれていたら嬉しい、などと馬鹿げたことを考えていた自分を戒めたくなった。
開いたノートを勢いよく閉じて、気づけば家着のまま外へ飛び出していた。
早くヒナタに会わなければ。会って、目を見て、「ただいま」を言いたい。
長い間深く侵され、染み付いたヒナタのチャクラを探り出すことなど、ネジにとっては造作もないことだ。あっという間に見つけて、その方へと急ぐ。
少しずつ、少しずつ近づくあたたかいチャクラが、心底心地よかった。
……もうすぐ、もうすぐ会える――。
「……ヒナタ様!」
木の葉病院の傍らの道で、いとしい人の姿を捕らえた。
「……ネジ、兄さん?」
振り返ったその顔は、瞬く間に涙に歪む。
ひらひらと舞う梅の花びらが、可憐な彼女を一層うつくしく、綺麗に照らし出していた。
触れたい、けれどここは外だ。ぐっと堪えて、精一杯の笑顔を湛えた。
「ただいま戻りました……。寂しい思いをさせて、すみません。髪、短くしたんですね」
腰まであった長い髪を肩くらいまで切ったヒナタは、ネジが彼女に片思いをしていた頃を彷彿させて、何故だかひどく切なくなった。
ヒナタは髪に指を絡めて、俯きながら言葉を零した。
「お、おかえりなさい……。あなたの帰りを、ずっと待っていました……。あ、あの、この髪、変ですか? ネジ兄さんは、長い方がお好きですか?」
今にも零れ落ちそうな涙を堪えたヒナタは、年齢よりも、ずっと幼く見えた。
「いいえ……。とても、よく似合っています。可愛い。どんなあなたも可愛い……。オレは好きです。どんなあなたも好きです」
泣いているのか笑っているのか、とても忙しない表情でヒナタが言った。
「……寂しかったです。会いたかった、です……。無事に帰ってきてくださって、本当に嬉しい……」
手を繋いで急いで屋敷へと戻り、思い切りきつく抱きしめた。
ネジの腕の中、ヒナタは震えるほどに泣いていて、離れ離れでいた時間の重さが胸を刺した。ヒナタが落ち着くまで、ネジはずっとその頭を撫でていた。
いとおしさのあまり、心がひどく痛んだ。
「大丈夫ですか? 嘘の手紙を書いてしまって本当にすみません……。まさかあなたがこんなに寂しがってくださるとは思いもよりませんでした……」
「……ネジ兄さんは何も分かっていません。私にはもうあなたしかいないというのに……。どうして伝わらないのですか? こんなに好きなのに……」
「すみません。本当に申し訳ない。あ、そうだ。お土産があるんです。あなたの好きなひなあられとひし餅ですよ。一緒に食べませんか?」
「……え?」
「あれ? 好きではなかったですか?」
「いいえ、違うんです……。笑わないで聞いてくださいね? あなたが帰ってこなければひとりでやけ食いしてやろうと思って、買ってあったんです……。まさかあなたが買ってきてくださるとは思わなかったから……」
「では、今日の夕飯はひなあられとひし餅にしましょうか。今日は女の子の節句だし」
「いいのですか?」
「もちろん」
途端に泣き止んだヒナタは、やはり年齢よりも幼い顔をしていた。
どうしようもなくいとおしくて、涙に濡れた唇に、何度も何度も口づけた。
そのあいだじゅう、ヒナタはとても幸せそうにしていた。
……ネジも、最高に幸せだった。
*
湯浴みを済ませたヒナタが、ネジの待つ居間に、大量のひなあられとひし餅、それからお茶を持ってきてくれた。さくさくとした軽いひなあられはともかく、ひし餅をひとり一つ食べるのは少々厳しいものがある。
が、ヒナタが心底嬉しそうにしていたので、無理やりにでもぜんぶ食べようと決意した。
ふたつ並んだ湯のみを嬉しそうに眺めるヒナタを、心からいとおしく思う。
しかして、自分の湯のみに手を掛け、ヒナタの淹れてくれたお茶を飲んだ。……何故だろう。それはいつもと違う味がした。
「……おいしい。今日は煎茶ではないのですね。これは何のお茶ですか?」
「ルイボスティーです。病院の先生に、勧めていただいて……」
そういえば、さっきヒナタを見つけたのは病院の近くだった。
あまりにも必死で、疑問を抱くゆとりがなかったけれど。
途端に、言い知れぬ不安が頭をもたげる。
「……どこか悪いのですか?」
自分がいないあいだに、ヒナタはひとりで病院に通っていたのか……。つくづく、心細い思いをさせてしまったことを悔いた。
何とも言えない重苦しさに包まれながら、ヒナタの言承けを待つ。
相当悪いのか、ヒナタはなかなか口を開こうとしない。
……余計に不安になる。
「あの、ヒナタ様? オレに言えないことですか?」
再び、どうにか絞り出したネジの声は震えていた。
「……いいえ」
「何があったのですか?」
ヒナタが言いにくそうにしているので、努めてやさしくその先を促せば――。
「……赤ちゃんが、できたんです……」
想像の、遥か上をいく言葉が返ってきた。
「え……? あの、数回で?」
ひどく動転していたので、ネジは見当違いの反応を示してしまった。
ヒナタは恥ずかしそうに慌てていた。
「いっ、言わないでください……! それに、数回なんてものではありませんでした……」
「……それはすみません」
「し、しかも……」
「しかも?」
真っ赤になったヒナタが、またもじもじと俯いてしまった。
何だろう? このいとしい人は、次はどんな言葉を紡ぎ出すのだろう?
努めて穏やかにその先を待った。
しかして、ヒナタの答えは、
「……双子、なんです……」
またしても想像の範疇を超えるものだった。
「はじめての妊娠で心細かったのに、ネジ兄さんはなかなか帰ってこないし、ひとりで、何度も泣いていたのですよ? でも、お腹の中に兄さんと私の家族がいる。ふたりもいる。そう思ったら、何とかここまで持ち堪えられました」
どうしよう。嬉しさのあまり、何も言うことができない。
……しばらく言葉を失っていたネジが、ヒナタの声に我に返った。
「ネジ兄さん? まさか、泣いているのですか?」
心配そうにのぞき込んでくるヒナタを、そのお腹に注意を払いながら、これ以上ないくらいにやさしく抱きしめた。
さっき、思い切りきつく抱きしめてしまったけれど、お腹の子は大丈夫だっただろうか?
またしても不安になる。……喜びと不安、怖いくらいの幸せに支配されて、今いるここは夢か現実か、天国なのか世界の果てか、何がなんだか分からなくなってしまった。震える背中をヒナタがさすってくれたので、どうにか平常心を保っていられた。
「この二ヶ月間ひとりでいて、幼い頃、きっと心細かったネジ兄さんのお気持ちを少しだけ理解しました……。ずっとひとりで強く生きてきたネジ兄さんに、家族をつくってあげられる。それも私のお腹の中で育ててゆけるのだと思うと、嬉しくて、嬉しくて……。まだ性別は分からないのですが、男の子でも女の子でも、あなたに似て綺麗で優秀な子になればいいな、と思います。私に似て、落ちこぼれになってしまったら可哀想だから……」
やはりヒナタは、どんなときでもヒナタだった。
十分に立派なのだから……。儚いくらいにうつくしく、誰よりも強い人なのだから……。
もっと自信を持ってほしい。
「そんなことない……。あなたのように優しくて立派な子になればいい、オレはそう思います。それに、日向の旧習は、ふたりで変えていけばいい。オレたちが抱えた闇を、これからの世代の子たちにも引き継ぐことはない。明るい日向の未来を一緒に創造していけばいい」
「そうですね……。これからふたりの母になるのだから、弱音など吐いていられませんね」
……違う。そんなことを言いたいわけではない。
もどかしくて、抱きしめる腕にほんの少しだけ力をこめた。ヒナタは泣いていた。
ネジは尚も心をこめて言葉を紡ぐ。
「唯一、オレにだけは甘えてください。ずっと気を張っていたらいつか潰れてしまいます……。あなたは弱い自分を律して、どんなときも強くあろうとする立派な人だ。そんなところもどうしようもなく好きだけど、決して無理はしないでください。少なくともオレの前では本来のあなたらしくいてほしい」
想いが伝わったのか、ヒナタも、緩く抱きしめ返してくれた。この上なく幸せだった。
「ありがとう……。あなたの奥さんになれて、私は本当に幸せです」
「それを言うなら、間違いなくオレの方だ」
*
2月22日
病院に行ったら、お腹の赤ちゃんが二人いることが分かりました。
昨日、泣きながら「寂しい」なんて書いてしまったけれど、ここには私を含めて三人の家族がいるのだから、そんなことを考えていてはだめですね。
少し、反省しました。
「胎芽」といわれる時期が終わり、「胎児」という呼び名に変わったようです。
たった4センチくらいで、まだまだとても小さいのに、もう人のかたちをしているのですよ!
2月24日
外からは判断できませんが、もう性別が分かるほどに体ができているそうです。
どちらでもいい。男の子でも女の子でも、絶対にかわいい。でも、できればネジ兄さんに似てほしいな、と思います。
2月28日
最近、食欲がすごいです。それも、お菓子ばかりが食べたくなります。
お腹の赤ちゃんのためにもちゃんと栄養を取ろうと思います。
3月2日
ひな祭りまでに帰ってくると、手紙に書いてくださっていたのに……。
まだですか? まだ帰れないのですか?
やっぱりあなたがいないと寂しいです。
3月3日
今日は病院で検診があります。
早朝、あなたが帰ってくるのではないかと、ずいぶん早くに目が覚めました。
やはりここには三人しかいなくて、思わず、泣いてしまいました。
早く会いたいです……。
*
ヒナタの日記を読んで、ネジはまたしても涙を流していた。
上忍にもなって情けないと思ったけれど、どうしても止められなかったのだ。しかし、ヒナタがねだるので、すぐに返事を書いた。少しでも喜んでくれるといいのだが――。
*
3月3日
あなたに愛されているということを、俺はまだ、現実のこととして受け止めきれていなかったようです。
あなたに自信を持ってほしいと思う一方で、俺のような者があなたに愛されるわけはないと、どこか卑屈になっていました。
……十年以上片思いをしていたのだから、当然のことなのかもしれません。
だから、俺がいないことで、あなたが寂しい思いをすることなど、想像もできませんでした。
俺はこの二ヶ月間、あなたと離れてとても寂しかったです。
けれどもあなたも同じように思ってくれているなどと、そんなふうに考えるのは、思い上がりなのではないかと馬鹿げたことを考えていました。
ヒナタ様が俺の帰りをそこまで待っているとは思わなかったので、手紙には、おおよその予定を書きました。それも反省しています。
秋には二人の家族が増えること、本当に幸せで、生きていてよかった、などと大げさなことを考えています。
俺はいつも仏頂面で、感情を表に出すことは苦手なのですが、本当は、いつ、どんなときも、あなたを思い浮かべてはひとりで幸せに浸っています。
それがあなた一人から子供も含めた三人に増えたら、少しくらいは上手に笑えるようになると思います。
俺も、会いたかった……。
あなたの元に帰ってこられて、最高に幸せです。
*
伝えたいことをすべて書いたら、思いの外長文になってしまった。
ところが、ヒナタがまるで宝物のようにして大切に読んでくれたので、恥を忍んで書いてみてよかったと、ネジは心底そう思ったのだった。
それからノートごと、再びヒナタを抱きしめた。
窓の外を見遣れば、果ての雪が、紅梅に色づいた木の葉の里に、白い水玉模様を描いていた。
もう花見月だというのに、性懲りもなく、まだ降り注ぐつもりなのか。
頼むから、身重のヒナタを冷やさないでほしい。淡い灰色の空に、祈りにも似た願いをこめてみても、梅の花びらと共に舞い落ちる雪は、一向に降り止む様子を見せなかった。
――あなたがあたためてくれればいいでしょう?
いつからヒナタはこんなにも自分に気を許してくれるようになったのだろうか。
嬉しい。もっと甘えてくれても、全力で寄りかかってくれてもいいくらい。
――もちろん、そうするつもりです。
いとしい人を腕に抱いて眠る。そのお腹の中には、儚く、尊すぎる命の灯が宿っている。
相変わらず降り積もる、一片、一片が冷たい雪に凍えそうになるけれど、こうやってヒナタと触れ合っていれば、熱くて焦げそうなほどの、深いぬくもりを感じられる。
愛する人と夫婦になって子を授かる。
こんなにも幸福なことを、短い人生の中で知ることができて本当によかった。
濃淡様々な紅梅色と雪の白を、ネジは生涯忘れることはないだろう。
こんなにも幸せで、こんなにもあたたかな日があったことを、絶対、忘れられるわけがない。
生まれてくる子供たちに、いつかこの綺麗な景色を見せてあげたい。
そのためにも強く生きて、いつまでも末永くヒナタの傍に寄り添っていたい。
大切な妻を、子を、どこまでも自分の腕で守り抜きたい。
ネジは、ヒナタの隣でヒナタの夢を見ながら、真っ白に澄んだ清らかな笑みを浮かべていた。